いい人は、良い人のことではない。判断できる人になる方法

「いい人」と言われるのは、決して悪いことではありません。
優しくて、話を聞いてくれて、相手の気持ちを考えられる。
そんな人が周囲から好かれるのは当然です。
ただ、仕事では少し話が変わります。
「A案とB案なら、どちらがいいと思いますか?」
そう聞かれたとき、いい人なら「どちらでもいいと思います」と答えるでしょう。
一見すると、柔軟で協調性のある答えです。
でも、本当に相手が求めているのは、あなたの判断ではないでしょうか。
「私はA案がいいと思います。理由は○○です」
そこまで言える人なら、相手も次の判断ができます。
さらに、「A案にはこういうメリットがあります。一方で、こういうデメリットがあります。B案は○○というメリットがありますが、現在の状況では○○が問題になります。だから私はA案をおすすめします」
とまで説明できれば、もっと信頼されるはずです。
仕事で求められるのは、単に意見を言うことではありません。
自分で考え、判断し、その理由を説明すること。
そして、相手が納得して判断できるところまで、自分の考えを伝えることです。
この記事では、そんな意味での「いい人」について考えてみます。
01 「いい人」は、本当に良い人なのか

「Aがいい」と言われればA、「Bがいい」と言われればB
ここで、最初に「いい人」の意味を決めておきましょう。
この記事でいう「いい人」は、優しい人のことではありません。
困っている人を助ける人でも、周囲に気を配れる人でもありません。
私がここで考えたい「いい人」とは、相手の意見に合わせることで、摩擦を避け続ける人のことです。
例えば、こんな会話があります。
「A案がいいと思うんだけど、どう思う?」
「Aでいいと思います」
ところが、別の人から、
「私はB案のほうがいいと思うんだけど、どう?」
と聞かれると、「Bでもいいと思います」と答える。
どちらにも「いいですよ」と言う。
相手からすれば、感じのいい人かもしれません。
反対意見を言わないので、話も揉めません。
だから、周囲からは「いい人」と思われるでしょう。
しかし、仕事という視点から見ると、少し気になるところがあります。
この人自身は、AとBのどちらがいいと思っているのでしょうか。
そこが分かりません。
「どちらでもいいよ」は、判断していないのと同じ
もちろん、本当にどちらでもいい場合もあります。
Aを選んでもBを選んでも結果がほとんど変わらない。
本人にも特にこだわりがない。
そんな場面なら、「どちらでもいい」は何も悪くありません。
問題なのは、判断する必要がある場面でも「どちらでもいい」と答えてしまうことです。
仕事では、AとBにそれぞれメリットとデメリットがあることが珍しくありません。
むしろ、どちらを選んでも何かを失うからこそ、誰かが決めなければならない。
そのときに、「Aにもメリットがありますし、Bにもメリットがあります」だけで終わってしまったら、相手は困ります。
それは比較であって、判断ではないからです。
例えば、お客様から、「A案とB案なら、どちらがおすすめですか?」と聞かれたとします。
そこで、「どちらも一長一短ですね」と言って終わったら、お客様はこう思うかもしれません。
「それは分かっている。だから、あなたはどちらをすすめるの?」
相手が欲しいのは、単なる情報ではありません。
情報を整理したうえでの、あなたの判断です。
02 仕事で必要なのは「いい人」ではなく、判断できる人

「私はAだと思います」と言えるだけで仕事は変わる
仕事ができる人を考えたとき、知識が豊富な人、仕事が速い人、コミュニケーション能力が高い人など、いろいろなタイプがいます。
その中でも、立場が上がるほど重要になるのが「判断する力」です。
なぜなら、仕事をしていると、最後には必ず選ばなければならないからです。
AかBか。
やるか、やらないか。
今やるか、後回しにするか。
利益を取るか、安全性を取るか。
短期を優先するか、長期を優先するか。
すべてに正解が用意されているわけではありません。
だからこそ、「私はAだと思います」と言えることに価値があります。
もちろん、間違っているかもしれません。
それでも、「自分はこう考えた」という判断を示すことが大切です。
「どちらでもいい」と言っておけば、失敗したときに責任を負わなくて済むかもしれません。
しかし、それではいつまで経っても、誰かに判断してもらう側から抜け出せません。
「なぜならば」まで説明できて、初めて仕事になる
ただし、「私はAだと思います」だけでも十分とは言えません。
本当に重要なのは、その後です。
「なぜならば」と説明できるか。
ここに大きな差があります。
例えば、お客様からA案とB案について相談されたとします。
悪い回答は、こうです。
「私はA案がいいと思います」
これでは、お客様は、
「なぜ?」
と聞き返すしかありません。
もう少し良い回答なら、「私はA案がおすすめです。コストを抑えられるからです」となります。
でも、これでもまだ足りないかもしれません。
A案には、コストが安い代わりに納期が長いというデメリットがあるかもしれないからです。
そこで、こう説明します。
「A案のメリットは、コストを抑えられることです。一方で、納期がB案より長くなるデメリットがあります。
B案はコストが高くなりますが、納期を短くできるメリットがあります。
現在の状況では、納期を急ぐ必要性がそれほど高くないため、私はA案をおすすめします。
コストを抑えながら必要な品質も確保できるからです。
以上を踏まえて、最終的なご判断をお願いします」
ここまで言えれば、話は大きく変わります。
A案を押しつけているわけではありません。
B案を否定しているわけでもありません。
それぞれのメリットとデメリットを整理し、現在の状況を踏まえて、自分の推奨案と理由を示している。
これが仕事で使える「判断」です。
そして最後は、「最終的なご判断をお願いします」で相手に返す。
これは非常に大切なことです。
▼ポイント
- 「どちらでもいい」は判断を相手に返している
- 意見には「なぜならば」を添える
- 相手が判断できる材料まで説明する
相手を納得させるとは、言い負かすことではない
ここでいう「相手を納得させる」という言葉を、誤解してほしくありません。
相手を言い負かすことではありません。
自分の意見を押し通すことでもありません。
相手が、「なるほど。そういう理由ならAを選ぶのがよさそうだ」と判断できる状態まで説明することです。
例えば、「絶対にAです」と言い切るだけでは、相手は納得できないかもしれません。
逆に、
「Aにはこのメリットがあります。ただ、Bにもこのメリットがあります。今回の目的が○○で、現在の条件が○○なので、私はAをおすすめします」
と説明されれば、相手は自分でも考えられます。
ここには、相手への配慮があります。
だから、自分の意見を言うことと、相手の意見を尊重することは両立します。
むしろ、本当に相手のことを考えるなら、自分が持っている判断材料を伝えるべきなのです。
03 「いい人上司」が仕事を難しくする理由

部下が欲しいのは「何でもいいよ」ではない
「いい人」が上司になると、少し困ったことが起こります。
部下が、「AとBなら、どちらで進めましょうか?」と聞く。
上司が、「どっちでもいいよ。君がやりやすいほうで」と答える。
優しい上司に見えます。
部下を信頼して、任せているようにも見えます。
しかし、部下が本当に欲しかったのは、丸投げではありません。
「AとBなら、今の状況ではAでいこう」という判断だったかもしれません。
もちろん、部下に考えさせることは重要です。
何でも上司が決めてしまえば、部下は自分で考えなくなります。
だからこそ、「君はどう思う?」と先に聞くことは良いことです。
しかし、その答えを聞いた後に、「なるほど。では、その理由を踏まえると今回はAでいこう」と決める。
これが上司の仕事です。
良い上司は、判断の責任から逃げない
上司になると、部下よりも多くの判断をしなければなりません。
そして、判断には責任がついてきます。
だからこそ、「みんながそう言ったから」ではなく、「みんなの意見を聞いたうえで、私はこう判断した」と言えることが大切です。
結果が良ければ、チームの成果になります。
結果が悪ければ、「なぜ、この判断をしたのか」を振り返ることができます。
これが組織を強くします。
一方で、誰も判断していなければ、失敗しても原因が分かりません。
「みんなで決めた」という言葉だけが残ってしまいます。
判断する人がいるから、組織は前に進めます。
だから上司に必要なのは、部下から嫌われないことだけではありません。
必要なのは、部下が迷ったときに、判断を示せること。
そして、その判断について、「なぜそう決めたのか」を説明できることです。
「好かれる上司」と「信頼される上司」は違う
ここは、少し厳しい話かもしれません。
「いい人」と言われることと、「信頼される人」であることは同じではありません。
誰からも嫌われない上司は、確かに魅力的です。
話を聞いてくれる。
怒らない。
部下に自由を与える。
失敗しても責めない。
それ自体は素晴らしいことです。
ただ、それだけでは足りません。
部下が本当に困っているとき、「あなたならどうする?」と聞かれて、「どっちでもいいよ」と返すのではなく、「私はAだと思う。理由はこれだ」と言える。
そのうえで、「もちろん、君の考えも聞きたい」と言える。
そんな上司なら、部下は安心して相談できます。
好かれる上司より、困ったときに頼れる上司。
30代を超えて仕事を続けていると、この違いがだんだん分かってくるのではないでしょうか。
04 理想のリーダーは、作品の中にもいる
ここからは少し視点を変えます。
仕事の本を読んで、「判断できる人になりましょう」と言われても、実際にどんな人なのかイメージしにくいものです。
だから私は、映画やドラマを見るのも一つの方法だと思っています。
物語の中には、会社を背負い、部下を背負い、ときには自分自身の信念まで背負って決断する人が登場します。
もちろん、現実の経営者や上司がすべて物語の主人公のように振る舞えるわけではありません。
それでも、「自分なら、この場面でどう判断するだろう」と考えながら見ると、作品の見え方が変わります。
今回紹介したいのは、単純に「仕事ができる人」が登場する作品ではありません。
「この人のように、自分の判断を持てる人間になりたい」と思える作品です。
『下町ロケット』

会社を背負って、自分で決める
今回、まず外せないのが「下町ロケット」です。
主人公の佃航平は、佃製作所の社長です。
TBS公式でも、佃は小型エンジンを開発・販売する町工場の二代目社長であり、かつて宇宙科学開発機構の研究員だった人物として紹介されています。ロケットへの夢を持ちながら、会社経営という現実の中でさまざまな決断を迫られます。
この作品を今回のテーマで見るなら、ロケットがどうこうという話だけではありません。
見てほしいのは、「社長として、最後に何を選ぶのか」という部分です。
会社には社員がいます。
取引先もいます。
お金の問題もあります。
技術者として譲れないものもあります。
夢もあります。
つまり、全部を同時に満たせるわけではありません。
その中で、「これが正しい」と判断しなければならない。
そして、その判断に社員がついてくるかどうかも問われます。
佃航平という人物の魅力は、単純に「熱い社長」だからではありません。
自分が何を大切にするのかを決め、その決断を背負うところにあります。
会社を経営する人だけでなく、部下を持つ人にも見てほしい作品です。
「自分なら、この場面でどうするだろう」と考えながら見ると、仕事に対する見方も少し変わると思います。
現在、2015年版・2018年版ともにU-NEXTで見放題配信されています。
また、Amazon Prime Videoにも2015年版・2018年版の作品ページがあります。
※配信状況は変更される場合があります。
「判断できる社長とは、どういう人なのか」を考えたいなら、まず見てほしい作品です。
『空飛ぶタイヤ』

責任を背負う人間は、簡単に諦めない
次におすすめしたいのが、2018年公開の映画「空飛ぶタイヤ」です。
主人公は運送会社を経営する赤松徳郎。
ある事故をきっかけに、自社の整備不良を疑われます。
しかし赤松は、車両そのものに問題があるのではないかと疑い、製造元に再調査を要求します。
作品の公式配信情報でも、運送会社社長の赤松が車両の欠陥に気づき、製造元に再調査を要求するところから物語が動き始めることが確認できます。
この作品で見てほしいのは、「社長だから偉い」という話ではないこと。
会社を守らなければならない。
社員を守らなければならない。
お客様にも説明しなければならない。
自分の判断が会社の存続に影響する。
そんな状況でも、「たぶん大丈夫だろう」で済ませず、自分で調べ、考え、相手に説明し、必要なら戦う。
それが経営者の仕事です。
もちろん、何でも疑えばいいわけではありません。
大切なのは、自分で確かめ、自分の判断を持ち、その判断に責任を持つこと。
今回の記事で話している「いい人になるな」という考え方とも、非常に相性がいい作品です。
現在、U-NEXTでは見放題配信されています。Amazon Prime Videoにも作品ページがありますが、検索時点では利用地域によっては視聴できない表示も確認できるため、配信状況は登録前に確認してください。
『マネーボール』

常識ではなく、自分の判断基準を持つ
3本目は、少し意外かもしれません。
「マネーボール」です。
野球映画ですが、今回の記事との相性は非常に良い作品です。
主人公のビリー・ビーンは、低迷するオークランド・アスレチックスのゼネラルマネージャー。
資金の豊富な球団とは違い、限られた予算の中でチームを作らなければなりません。
そこで彼は、それまでの野球界の常識とは異なるデータ重視の選手評価を取り入れます。U-NEXTも、実在のゼネラルマネージャーによる球団再建を描いた作品として紹介しています。
ここで重要なのは、データ分析そのものではありません。
「みんながそうしているから」という理由で判断しなかったことです。
周囲から反対される。
これまでのやり方を否定することになる。
結果が出なければ、自分の判断が間違っていたことになる。
それでも、自分なりの根拠を持って、「私はこう考える」と決める。
これは、先ほどのA案・B案の話と同じです。
「A案がいいと思います」と言うためには、理由が必要です。
「みんながAと言っているから」ではなく、「現在の条件を考えると、私はAを選ぶ」と言えること。
それが、判断する人です。
もちろん、ビリー・ビーンのすべての振る舞いを「理想の人間」として勧めるわけではありません。
むしろ、「常識に流されず、自分の判断基準を持つ」という一点を学ぶために見る作品です。
現在、U-NEXTでは見放題配信されています。
「判断できる人」は、何でも自分で決める人ではない
ここまで読むと、「結局、何でも自分で決めろということ?」と思うかもしれません。
違います。
それでは独裁になってしまいます。
大切なのは、人の意見を聞いたうえで、自分の判断を持つこと。
部下の意見を聞く。
お客様の希望を聞く。
上司の考えを聞く。
専門家の意見を聞く。
データを見る。
リスクを確認する。
そのうえで、「私はAだと思います」と言う。
これが判断です。
だから、優しい人でもいい。
協調性があってもいい。
人の意見を尊重してもいい。
ただ、「私はどう思うのか」まで失ってはいけない。そして、それを言葉にする。
さらに、「なぜならば」と続ける。
05 明日から「私はAだと思います」と言ってみよう

意見を求められたら、まず自分の答えを出す
いきなり難しいことをする必要はありません。
明日から一つだけ変えるなら、「どうしましょう?」と聞かれたとき、自分の答えを先に出す。
これだけでいいと思います。
例えば、「どうしましょうか?」と聞かれたら、「私はAがいいと思います」と言う。
それから、「理由は○○です」と続ける。
もし相手が、「なるほど。でもBはどう?」と聞いてきたら、「Bには○○というメリットがあります。ただ、今回は○○があるので、私はAをおすすめします」と答える。
それで十分です。
最初から完璧なプレゼンをする必要はありません。
自分の判断を言葉にする練習をすること。
まずはそこからです。
「理由」を一つ添えるだけで、意見は判断になる
「私はAだと思います」
だけなら、それは単なる感想かもしれません。
そこに、「なぜなら、○○だからです」を加える。
すると、相手はあなたの考え方を理解できます。
さらに余裕があれば、「Aのメリットは○○です。ただ、デメリットとして○○があります。Bは逆に○○です。現在の状況なら、私はAをおすすめします」と説明する。
ここまでできれば、かなり強い。
そして最後に、「いかがでしょうか。最終的なご判断をお願いします」と相手に返す。
これは、お客様との打ち合わせでも使えます。
上司への報告でも使えます。
部下から相談されたときにも使えます。
経営判断でも、考え方は同じです。
「私はこう思います。理由はこれです」という基本形を持っておけばいい。
▼ポイント
- まず自分の推奨案を言ってみる
- 理由は一つから始めればいい
- 判断することと独断は同じではない
06 まとめ

「いい人」ではなく、判断できる人になろう
「いい人」と呼ばれること自体は、悪いことではありません。
優しさも、協調性も、人の話を聞く力も、仕事には必要です。
ただ、それだけでは足りない。
「AとBなら、どちらがいいと思いますか?」
と聞かれたとき、「どちらでもいいです」で終わらせない。
「私はAだと思います。なぜならば……」
と、自分の判断を伝える。
さらに、AとBそれぞれのメリットとデメリットを整理し、なぜAをすすめるのかまで説明する。
そして最後は、「いかがでしょうか。最終的なご判断をお願いします」と相手に委ねる。
これができれば、自分勝手になる必要はありません。
むしろ、相手が判断するために必要な情報を渡せる人になります。
上司にも、お客様にも、部下にも、経営者にも通用する考え方です。
そして、立場が上がるほど、この能力は重要になります。
だから私は、「いい人になるな」ではなく、「判断できる人になろう」と言いたい。
人の意見は聞けばいい。
優しくてもいい。
迷ってもいい。
それでも最後には、「私はこう思います」と言える人でありたい。
そのために必要なのは、特別な才能ではありません。
今日から一つの相談に、「私はAだと思います。理由は○○です」と答えてみること。
その小さな積み重ねが、誰かに決めてもらう人から、自分で考えて人を導ける人へ変わる第一歩になるはずです。
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